第4回 chapter2
パッケージング・レイアウト クルマの素性を決める「3次元パズル」
パワーパッケージを置いてみる。
ここで人体の主要ブロックの重量も、おおよその見積もりでもいいから把握しておきたい。人間をその重心というひとつの点で代表させることもできる し、ある段階からはそれだけでレイアウト検討を進めてもいいのだが、全体で200~300kgにしかならないはずの今回の車両では、人体という「重量物」 がどのように分布しているかを把握して重量とその配分の検討を進めたいところだ。
同じように、もうひとつの重量のある「塊」であるエンジン とトランスミッション、あるいはモーター(とその制御系)と電池についても、重量とおおよその重心位置を確かめておく。できればこの段階で、ファイナルド ライブ(デファレンシャルギア系を含む)、冷熱系(ラジエーターと冷却水量など)、ステアリングギアなどの重量概要・目標の見積もりもあったほうが予測精 度は上がるが、この段階ではそこまで進めなくてもいい。
人間の座り方を固めたら、次に動力システム、とくにエンジン+トランスミッション、 あるいはモーターの搭載形態とおおよその位置を決める。こうした車両では動力システムは人間の背後に置き、後輪を駆動するレイアウトが一般的だが、前輪駆 動を選ぶというアプローチもここでは否定しない(とくに電動モーター駆動とする場合は。その意味については読者のイマジネーションに委ねる)。
常識的に、いわゆるミッドシップ・レイアウト~後輪駆動とする場合は、まず人間の背面にコックピットと動力システムのエリアを仕切る隔壁を設けた上で、そこ にできるだけ近づけてエンジンを置くことを検討する。人間とエンジンという重い塊を接近させて、車体の中核位置に集中させるためだ。
さらに言えば、この時に重量の分布を重心点付近を核にして前後方向の変化を滑らかにすること。これはクルマの運動能力を高めるだけでなく、運動の中で現れる様々な過渡特性を素直なものになるかどうかに関わってくる。
そして車両の前後方向だけでなく、横方向に対してもできるだけ左右のバランスが取れる配置にすること。これは最終的に完成した車両の4輪荷重のバランスが良 くなることにつながり、いわゆるコーナーウェイトを取るのも容易になる。これもまた車両運動の中で素性の良し悪しとなって顔を出すものである。
ロールする質量塊とリアタイヤの関係
こうしたクルマの運動力学の、とくに「曲がる」ことに関わるヨー運動のごく基礎を考えるためには、前後のタイヤ各1輪とそれを結ぶ剛体、そのどこか(中央 付近)に重心があるという「2輪車モデル」を描いて、それを上から見て(この段階ではロールはしないものとして)力とモーメント、その釣り合いを検討する とわかりやすい。
さらにもう少し考えを進めて、人間やエンジンなど重量の大きな塊がある高さにあり、それらに働きかけて運動を作り、そこに発生する慣性力を支えるタイヤの 摩擦力が作用するのが接地面、つまり路面であって、両者に高さ方向のズレがあることから、クルマは旋回時に外に揺動して傾くロール運動を起こす。ヨーと ロールが連成した速い運動を収めるのもリアタイヤの横力である。後輪側に集中しがちな重量物と、その運動を受け止めるリアタイヤとの位置関係にも目を配る 必要がある。
一般のロードカーであれば、後輪側に重量物を集めたレイアウトの車両では、その質量を受け止める後輪のタイヤサイズ(運動を支えるキャパシティ)を前輪よ りも2~3段階、あるいはそれ以上大きくする。
しかしここで検討しているようなモータースポーツ車両のためのタイヤは、世界的にも選択が限られているの で、「入手できるもの」で計画を進めることになる。その場合、まずは質量塊の重心点と質量分布に対して、4輪の前後位置をどう設定するか、さらに左右方向 の位置をどう設定するかが、運動特性の素質を決めることになる。
もう一点付け加えておくなら、左右方向位置、すなわちトレッドについては、重心高さが一定の場合、その幅を広げるほどロール運動に対する重心高の影響を減らす方向に働く。