第12回 chapter4

その3:マシンをセットアップする。

バネ系の作動も実走で確認。

定常円旋回試験では、遠心力の変化に応じて前後それぞれのロール姿勢、すなわち車体のロール角だけでなく、内外サスペンション・ストローク(差動)も確かめられるので、そこから例えばロール剛性の過不足も見て取れるし、旋回外側輪の沈み込み・内側輪の浮き上がりがどのように発生しているかが読み取れる。

一方で旋回外側輪の荷重に対するバンプ(縮み)ストローク量に着目すれば、実走・実動の中でのバネレート(ホイールレート)も推定できる。ここで主バネによるホイールレートを確認したいのであれば、アンチロールバーを外した試験を行えば良い。

主バネのスプリングレートを選ぶ要件のひとつは、想定される最大荷重が加わった状態で、設計上で設定したサスペンション・ストロークを使い切る手前の縮み量に収まるようにすること。もちろんそこまで縮んだ中で路面の突起を踏めばさらに縮み方向へ深く動くわけで、そこでもサスペンション・ストロークを使い切らないようにしたい。一般的には、量産車でも競技専用車両でもフルストロークまで使い切らないように「バンプストップ」のための弾性塊(ラバーやウレタン)を組み込む。このバンプストップ・ラバーは、主バネとの複合でプログレッシブレートのバネ特性を形づくることになり、とりわけ車両の限界挙動に大きな影響をもたらす。車速の二乗に比例する空力荷重を受けつつ走る最近のサーキットレース車両では、このバンプストップ・ラバーを「パッカー」と呼んで、縮みストローク限界を細かく設定しつつ、それが「タッチ」するところの挙動変化までがセッティングの対象となっている。

ロール剛性バランスで旋回特性も変化する。

主バネとアンチロールバーの組み合わせによるロール剛性は、旋回時に作用する遠心力を受け止めることで、内輪側から外輪側に荷重が移動する、その力の大きさを決める。タイヤの摩擦力は荷重の増加に対して非線形な特性を持つ、つまり荷重増加とともに摩擦力は増えてゆくが荷重が大きくなるにつれてその増加が頭打ちになるのであって、すなわち旋回時の遠心力による外輪への荷重移動が大きくなると、内外輪を合わせた摩擦力(コーナリング・フォース)は減少しはじめる。

この原則に則って考えれば、前後それぞれのロール剛性を調整することで、定常円旋回のグリップ限界付近で前輪、後輪、どちらの滑りが大きくなるかを変化させることができる。すなわちアンダーステア・オーバーステア特性を、前後のロール剛性によって“チューニング”することが可能である。そしてもちろん、この前後ロール剛性とステア特性の関係確認も、定常円旋回試験によって行えるもので、それを整理したデータを元に実際のコース走行のセットアップへと展開するのが『早道』となる。

その一方で転舵~前輪側に横力発生・ヨーイング発生~旋回へ、というプロセスにおいてはロールの現れ方(角速度)と外側輪への荷重移動が、転舵応答の速さに直接影響する。その意味では、フロントのロール剛性はある程度高いことも必要になる。リアに関しては、とくに後輪が駆動力を受け持つクルマの場合、旋回の中から駆動力を増してゆくところで、タイヤの摩擦力ができるだけ安定していることが望ましい。俗に言う「グリップの粘り」が求められる。この視点からは、ロール剛性とともに加速の中で起こる後方への荷重移動に対してもサスペンションの縮みストロークが柔らかく出ることが望ましい。もちろん内外サスペンションの力学的バランスによって、旋回限界付近で内側タイヤが路面から浮き上がる挙動が出るような車両では、ロール剛性を高めに設定しなければならなくなる場合もある。

しかしロールを固めすぎると、旋回時に外輪接地点を支点(瞬間的なロールセンター)としてクルマ全体が浮き上がる挙動に至るので、ここは「適切なロール剛性」を見出すことが欠かせない。

パワーユニットも図示性能以上の質を作る。

エンジンの特性をどう作ってゆくか。その基本も定常円旋回にある。一定の舵角、一定の車速を維持して円を描く。そこに持ち込む微妙なアクセルの踏み込みに対してエンジンがスッと反応し、足を止めたらそこで一定のトルク・回転に落ち着くか。どんなコーナーでも旋回の鍵になるゾーンで必ずこの「バランス・スロットル」状態がある。そこからアクセルを踏み込んで加速に移る。この一連のプロセス、アクセル・コントロールに対する反応(レスポンス)と追従性(ドライバビリティ)が仕上がっていないと、ドライビングの組み立てが崩れてしまう。

もとより、直線の到達速度を高めて加速時間を稼ぐためには、全負荷状態での出力が高いほどいいわけだが、まがりくねったコースを意のままに走らせて、その結果としてタイムを切り詰めてゆくために、エンジンに求められるのは何より「過渡特性」なのである。

その意味では、コースのひとつひとつのコーナーを旋回するところではエンジンのトルクが厚く、応答が良い回転速度域に合わせ、加速を続けて次のコーナーに達したところでレブリミットになる、という使い方ができるような変速比を設定することが、競技専用車両のセッティングの第1段階となっている。ここで論じている車両では既存のパワーパッケージを流用することになるので、変速比の選択幅が限られるのはやむをえないけれども、最終減速比の選び方だけでも、コースレイアウトに応じた変数を用意しておきたい。