第1回 受賞チームによる 設計・開発レポート
名古屋大学による設計・開発レポート 2014年全日本学生フォーミュラ大会ベスト・サスペンション賞受賞車両3車の設計と開発・実戦レポート
設計について
サスペンションおよびステアリングのジオメトリー
今年度車両のFEM-11では、タイヤデータを利用したジオメトリー設計を行い、ドライバー・フィーリングの向上と4輪すべてのタイヤの性能を十分に発揮 することを目標とした。 また、FEM-11では空力パーツをバネ上に搭載することでダウンフォースを得ている。周回コースでの過渡状態を考慮すると、空力パーツを最も効率よく生 かすにはその位置変化(運動に伴う移動量)を抑制する必要がある。そこでマシンの姿勢変化を少なくするための開発も行った。
EM-11の開発でもこの4輪車両モデルを利用した。スキッドパッド走行時(旋回半径R = 8.5 m、1周4.7 sec)の車両運動の解析を行い算出した車体SAからリアタイヤのSAを算出し、内外輪含め4輪全てが目標SAを満たすように設計を行った。
フロントはスキッドパッド走行時における操舵角のアッカーマン率を86%にすることで目標SAを達成した。また、舵角0 deg.から最大舵角90 deg.までの間でその変化量を81%から100%までに抑えることにより、いかなる旋回半径でも同じ割合の内外輪切れ角を実現し、ステア操作におけるド ライバー・フィーリングの向上を図った。
リアは操舵することができないため、ロールステアを大きくつけることで目標SAを達成した。ロール ステアは任意の入力による制御ができないため、一般に外乱が加わった時ドライバーの予期せぬ挙動を示してしまう恐れが想定される。計算するとタイヤはSA がついてから0.07 sec.後に力を発生させる。サスペンション・ストロークのデータから、0.07 sec .(7.1 Hz)以上の外乱をローパスフィルターを用いて取り除いたところ、図2(スキッドパッド時のリア外輪)に示すようにサスペンション・ストロークのデータは 一定値を示しており、横Gの変化も顕著に見られない。よって、路面のアンジュレーションによるトー変化はマシン挙動にあまり影響を及ぼさないとの結論に 至った。
2.キングピン軸の設計 (以下、SAT:セルフアライニングトルク)
ステアリング系からの復元 モーメント(トルク)はドライビング・フィールに大きく作用する。キャスター角2 deg.の設計では周回走行において、タイヤデータから見てセルフアライニングトルクSATが0 Nm以下となるコーナーがあり、舵の抜けが起きた。FEM-11ではVIgradeを用いて周回走行でのフロントタイヤの最大SAを解析したところ、6 deg.であった。タイヤデータより、キャスター角3 deg.ではSATが0 Nmとなるのは6 deg.以上であったためこれを採用した。実際に周回走行を行った中で舵の抜けは確認されていない。リアキャスター角は-6 deg.とし、キャスタートレールをニューマチックトレール側に確保した。これにより最大SATをキャスター角0degに対して16 %減少させることができ、サイドロッドに加わる荷重量を減らした。
3.キャンバー変化の設計
キャンバーに関する設計では、初期キャンバーを少なく、かつ旋回時に外輪タイヤがポジティブ・キャンバーにならないように設計を行った。フロントの対車体キャンバー変化を-0.04 deg./mm、リアのキャンバー変化を-0.044 deg./mmとした。
4.車両姿勢
FEM-11では姿勢変化を抑制するため、フロントのホイールレートを4.2 kgf/mm、リアのホイールレートを4.8 kgf/mmとした。このとき、それぞれの固有振動数は4 Hz、4.2 Hzであり、ブレーキの共振周波数データ0.7~0.8 Hzを避けることができ、共振が生じないようになった。またアンチダイブ率を27%とすることで、アンチダイブ0 %に対して前輪のバンプ量を5 mm(1.6 G時)抑えることができ、ピッチ角では-1.7 deg.から-1.4 deg.に抑えた。アンチダイブ・ジオメトリーの採用により、タイヤ・ストロークに対してキャスター角変化が生じるが、コーナー進入時(0.7 G 制動)における操舵力変化は最大で4 %上昇であることから、ドライビング・フィールを損なうものではないと考えた。またリアに搭載した ディフューザー搭載の地面との接触を防ぐため、アンチロールバーを搭載し、ロール剛性の向上を図った。 ロール剛性はフロント510 Nm/deg.、リア540 Nm/deg.とし、旋回1.55 Gでのロール角1 deg.となるようにした。ロール軸高さについてはフロントが地面上50 mm、リアが同65 mmの前下がりとすることでフロントのロール剛性を高め、旋回の初期応答を高めた。このアンチロールバーは有段階式の調整機構を採用し、前後のロール剛性 配分を45:55~54:46の間で調節可能としている。
実走行を通してのまとめ
FEM- 11ではスキッドパッド走行時にニュートラルステア、周回走行の高速コーナーにおいて弱アンダーなステアリング特性を目指したセッティングを行った。しか し、設計時に選択していたContinental社製2014年モデルのタイヤを履くことができず、特性の異なるHoosier社のタイヤを履くことにな り、マシンの動きが設計時に想定していたのとは異なるものとなったことがセッティングを難しくした。また、タイヤの径や柔らかさも異なったことや、最大旋 回Gが1.7Gと、想定を大きく上回ったためフロアを擦ってしまい、車高を上げざるを得ず、マシンの挙動は決して良い状態とは言えなかった。これをフロントのホイールレート4.3 kgf/mm、リアのホイールレート5.5 kgf/mmのバネに換装することや、アンチロールバーの調節によって問題を解消しつつ、目標としてステアリング特性を目指した。
バンプス テアはサスストロークの収まりが悪い場合にはマシンの挙動乱れに繋がったため、過減衰にならない程度でダンパーの減衰を強くした。また、旋回Gが維持され るコーナーにおいての回頭性悪化にも繋がったが、スラロームタイムの向上が見られ、周回コース走行においてもバンプステアをつけたセッティングの方が約 1.5秒のタイム向上が見られた。