モータースポーツミニフォーミュラWEBセミナー 第7回 chapter3 サスペンション・デザイン

第7回 chapter3

その3:サスペンションのリンク・レイアウト

車体と車輪を連結する「リンケージ」の“お仕事”

サスペンション・リンクは、車輪保持部(アップライト、ハブキャリアなどと呼ばれる)と車体の間を連結して、力を伝え、位置決めをする。

まず「位置決め」に関しては、まず車体とタイヤの接地面の位置関係を保持しつつ、前回も触れたキャンバー変化とリンク(直線に置き換えて)の角度変化によ る瞬間揺動中心(仮想のものではあるが)の位置と移動を司る。 そして車両を上から見た時の車輪の向きの保持、すなわちトー変化(これは前後輪とも)、とくに前輪についてはタイヤの向きを動かし、ある角度で力を受けな がら保持する操舵機能が加わる。さらに車両を側面から見た時に車輪の前後方向の動きを最小限に止めつつ、サスペンションが伸縮するように設計してゆく。

タイヤの接地面で摩擦力が生まれ、クルマの運動が現れる中でこうした位置決めをするとなると、もちろん車輪保持部~サスペンション~車体の間には「力」が 作用する。この力としてはまず横方向、つまりタイヤが生み出すコーナリング・フォースと車体に作用する遠心力であり、前後方向に関しては、制動と駆動の中 で発生する前後方向の力、そしてブレーキの制動トルクを車輪保持部で受ける設計(ディスクブレーキの場合はキャリパーをハブキャリアで保持する形:アウト ボード配置)であればそのトルク反力が加わる。

付け加えるなら、タイヤが駆動力を発生することによって生ずるトルク反力は、車輪に駆動回転を伝える部分、一般的には最終減速機構+デファレンシャルギア のケースを車体に固定する部位に加わる。発進や変速、空転からグリップが回復する瞬間など駆動トルクが大きく、かつ激しく変動する瞬間は、この車体側取付 部にとても大きな力が加わることになる。もしブレーキの制動力発生部、たとえばキャリパーとディスクを車体側に組み付ける「インボード・ブレーキ」とした 場合も、制動時のトルク反力は車体側で受け止めることになる。

さらに付記するなら、原動機を電気モーターとし、モーターを車体側に固定した場合は、駆動・回生のトルク反力を最終駆動伝達部の車体固定点に作用するが、 モーターをインホイール配置とした場合は駆動・回生におけるトルク反力、衝撃荷重の全てを、モーター回転体と筐体の大きな質量の作用も含めて、ハブキャリ アとサスペンション・リンクで受け止めることになる。

トー変化による車両挙動変化とドライビング

タイヤが路面の凹凸を踏むなどサスペンションがストロークする中でトーが変化すると、「ドライビングというスポーツ」においては“外乱”になる。とくに 「ドライビングというスポーツ」のためのクルマは、バンプステア(ストロークに対するトー変化)は前後ともゼロが基本となる。その上で、設計者としての思 想や理念による「味付け」を加えることは否定しないけれども。

一般のクルマでは、練度も様々なドライバーが様々な路面、車両運動の中でも扱いやすくなるように、という理由付けと、サスペンション・ピボットには弾性体 (ゴムなど)のブッシュを組み込むことから、横方向の運動に対して車両挙動を安定させるように、と考えれた(なかなかそのとおりには働かないが)トー変化 を設定するようになった。

しかしトーが動けば、タイヤ接地面に横力の変化が生じ、それが車体を動かし、ヨーイングを増減させる。その度にドライバーは対処する操作をせざるをえなくなる。

あるいは左右輪に初期状態(1G静止)でトーインを設定しておけば、直進状態でスリップアングルが付いていることで、向き変えを始めた時に横力の立ち上が りが速くなる。とくに後輪についてはそれが車両のヨー挙動を安定させる方向に働く、とされている。それはそうなのだが、直進状態でタイヤに横すべり角が付 いていても問題はないとするのは、「左右のタイヤが同じ大きさの横力を逆方向に発生しているから、直進が維持できる」からだ。しかし現実には左右のタイヤ が踏んでいる路面の状態が均一であるほうが稀だ。まして片輪だけ路面の小さなうねりを踏んだだけで左右のタイヤの横力の均衡は簡単に崩れ、車両のリア側か ら横方向の運動が起こり、車両が進む向きが変化する。ドライバーにとっては、まっすぐ走っているように見えてじつは細かく修正舵を加え続けるようなクルマ になる。

またこのリアのイニシャル(初期状態)・トーインは、積極的に向きを変えて旋回に入るプロセスでは、フロントの横移動が始まりヨーイングが立ち上がる中で リアの左右均衡が変化した瞬間に旋回内側方向の横力を生む。それがヨーイングの増加を押さえ、車両全体を旋回内側方向に移動させるように働くわけで、ヨー 方向の車両姿勢変化が十分でない(ヘッドアウト)まま、旋回軌跡が内側にずれて旋回するクルマになる。何事もやりすぎは禁物、なのである。

前後力を受けるために伸びる上下のリンク

車輪と車体の間に作用する力と、車輪の位置決めに関して、ここまでで横方向は押さえることができた。次は前後方向だ。まずは前輪から考えていこう。

この稿のはじめで検討したように、後輪だけを駆動するのであれば、前輪を支持するサスペンション・リンクが受けるべき前後方向の力は、ブレーキに関わるも のだけになる。つまり制動力を発生している車輪が、車体から見れば後方に移動しようとする。それを止めれば力が加わる。リンクでこれを受ける。同時にブ レーキの摩擦力発生部分(つまりキャリパー)を車輪保持部(アップライト)にマウントした場合は、車輪の回転方向(とくに前進)にキャリパーが引っ張られ てアップライトに車軸まわりのトルクが加わる。これも受けて止める。

車輪保持部と車体をつなぐリンクとしては、アップライトの上下に1本ずつあれば、この前後力と回転力(トルク=モーメント)を受けられることになる。

上下とも同じ方向、制動力を受けることを考えれば車輪から後方に伸びて車体にピボットする配置でもいいが、単純な1本ずつのロッドでブレーキトルクを受け ることを考えた時、アッパー側を後方へ、ロワー側を前方に伸ばせば、トルクを受けた時、上下ともロッドには引張力が作用する形になる。しかしそのピボット を置く点まで、車体骨格(フレーム)の下側を前に伸ばす必要がある。そこをラジエーターとか衝撃吸収構造体の固定用に使う設計もできるが、車体骨格をでき るだけ短くしようという考え方ならば、ロワー側ロッドを後方に伸ばし、制動力とブレーキトルクの両方が圧縮方向に作用する前提でリンクを設計する。このあ たりも設計者の理念とセンスが現れるところとなる。

後輪のリンクが受ける前後力は制動・駆動の両方向

ブレーキングではタイヤに制動力が発生し、車体(ばね上)は慣性力で走り続けようとするから、前輪の荷重が増え、後輪の荷重が減る。とくにモータースポー ツ走行では強いブレーキングを常用するので、フロント・タイヤが制動力の大部分を発生し、リア・タイヤが受け持つ制動力の割合は小さく、ブレーキトルクも それに比例する。逆に後輪だけを駆動するクルマでは、制動力よりもむしろ強いぐらいの駆動力が加わる。この時は車体に対して車輪が前に行こうとするのを止 める形になる。最終減速・駆動機構を車体側に固定するレイアウトであれば、駆動反力によるトルクはサスペンション・リンクには加わらないことも、はじめに 検討したとおりだ。

つまりリア・サスペンションでは前後両方向の力を受けなければならないわけで、同時に車輪の、動きも規制するリンクを単純な1本ロッドで構成するとなれ ば、アップライトの上下それぞれから前に伸びて車体にピボットされる配置でいい。こういう配置のロッドを、ラジアスロッドと呼ぶこともある。

その車体側ピボット位置をコックピット背後まで前進させて設ければ、タイヤからフレームに対する入力の着力点を分散させることができるし、それをロール バーがあってフレームの中でも最も強固な部位に選ぶこともできる。一体のAアームで、ラテラルリンクとしての長さの中でこういう前後に開いた平面形にしよ うとすると、「A」の頂点の角度が開いて、横方向の剛性を高めるのが難しくなるので、車体側ピポットの前後方向の距離をあまり離すわけにもゆかない。