第1回 受賞チームによる 設計・開発レポート
大阪大学による設計・開発レポート 2014年全日本学生フォーミュラ大会ベスト・サスペンション賞受賞車両3車の設計と開発・実戦レポート
設計について
今年度、大阪大学フォーミュラレーシングクラブでは全日本学生フォーミュラ大会での総合優勝を目標とし、それを達成するために、動的種目における得点シ ミュレーションを行った。その結果を受けて、車両開発ターゲットを「周回走行におけるラップタイムの最小化」と設定した。周回走行コースにおいて車両に求 められる要素は、直線やコーナーなどの位置によって変化する。そこで、コースを直線・コーナー進入・脱出の3区間に分けて整理し、サスペンションにおいて はとくにコーナー進入・脱出に注力した。それぞれの区間における車両の力学的な運動・ドライバーの操作を考慮し、理想とする車両挙動の目標を、コーナーの 進入においては、「高いヨーゲイン及びその安定性」、脱出においては、「高い駆動力限界」と設定した。これらの挙動が達成できるように、各設計への落とし 込みを行った。
ステアリングはドライバーが加える数少ない入力の一つであり、車両のヨー方向の運動において重要な役割を果たしている。そこで、ステアリング・システムの 剛性に着目し、その剛性が車両運動に与える影響を評価した。その結果、ステアリングの剛性が高い方が、転舵入力を加えた時に車両のヨーレイトの立ち上がり が速くなることが分かった。そこでステアリング・システムにおいては、高剛性化及びガタの低減を目標とした。ステアリング・システムにおいて、剛性の寄与 度を評価した結果、ステアリングシャフトが大きな影響を持つことが分かった。そこでステアリングシャフトを薄肉大径化することで、重量増を抑えた上で高剛 性化を図った。またガタに関しては、原因がクイックリリース及びラック&ピ二オン部にあることが判明した。ラック&ピ二オンについては、 ラック軸とピ二オン軸の芯間距離をシムで変更できる機構とすることでバッククラッシュの低減を行うなどし、ステアリング・システム全体でのガタを低減させ た。このように高剛性かつガタの少ないステアリングを設計し、コーナー進入における高いヨーゲインを達成した。
ステアリング剛性が車両に与える影響を評価した図。赤線で示す方がステアリング剛性が高いものとなる。ステアリングホイールからのスッテプ入力に対して、ステアリング剛性が高い方がヨーレイトの立ち上がりが速くなっていることが分かる。コー ナリングのクリッピングポイント付近のヨーレイトの収束は、まずフロントタイヤから立ち上がる横力に対して、リアタイヤの横力が等しくなることによる。そ のためリアタイヤが果たす役割は大きく、特にヨーレイトの収束におけるリアのトー剛性が与える影響を評価した。トー剛性が低い場合はヨーレイトの収束が振 動的になり、安定性が悪くなることが判明した。また、サスペンションの動きが速いフォーミュラカーにおいてやドライバーが設計では意図していない修正舵を 加えた時の車両の動きにおいて、バンプに対するトー角変化も不安定要素になると考えた。これらから後輪トー角保持の高剛性化、バンプに対するトー角変化ゼ ロを目標とした。
リアタイヤにおけるトー剛性の影響を評価した図。赤線がトー剛性が高いものとなる。トー剛性が低いと、ヨーレイトの収束が振動的になることが分かる。ス チールスペースフレームを採用しているため、ブラケットの剛性を考慮すると、サスペンションの取付位置はパイプが集まる「節」に持ってくることが望まれ る。そこで車両後部において、エンジンマウント部分の「節」にブラケットを置くことで、エンジンを含めたフレームに入力を受け持たせることによる高剛性化 を図った。この時アーム開き角が大きくなるためアームの軸入力は増加するが、変位の寄与度がアームよりもブラケットおよびフレームの剛性の方が高いため、 上述の内容を採用した。また、リア・トーコントロールリンクをアッパーアームと同一平面に配置し、アームおよびリンクの瞬間回転中心が変化してもトー角変 化が起こらないような設計とした。同一平面内という制約の中で、また、アップライト側のトーコントロールリンクとアッパーアームの取付位置をホイールとの 干渉という制約条件の中で最大化することで、トーコントロールリンクへの入力を低減させた。このように、リアのトー剛性の向上およびバンプ/リバウンドに 対するトー角変化を減らすことで、進入・脱出時の安定性を向上させた。
リア・サスペンションの配置、およびトーコントロールリンク配置に関する図。フレームの「節」にサスペンション・ブラケットを配置、とくにこのリ ア。側ではエンジンマウント位置に配置するようにしていることで高剛性化を狙った。またトーコントロールリンクへの入力を低減させるため、トーコントロー ルリンクとアッパーアームの距離を①ホイールとアームの干渉、②両者を同一平面内に置く という2条件の制約の中で最大とした設計。フレームのパイプの集まる節にサスペンション・ブラケットを配置しつつ、リア・アッパーアームとリア・トーコン トロールリンクを同一平面とすることで、それぞれの瞬間回転中心が変化してもトー角変化が発生しないよう設計した。
走行性能開発について
セッティングにおいては、スキッドパッド、周回走行に関してそれぞれのセッティングを用意した。スキッドパッド走行に関しては、タイヤの表面の温度分布を 測定することでタイヤのキャンバーの使用状況を評価し、イニシャル・キャンバーおよびタイヤ内圧を合わせた。コース周回走行に関しては、スキッドパッドに おけるセッティングを基準に、コーナー脱出時の安定性を高めるためにドライビングに支障が出ない程度に後輪にイニシャル・トーインを設定した。タイヤ内圧 に関しては、タイヤデータ上ではCP(コーナリング・パワー)とタイヤの最大横力等についてトレードオフが存在する。そこでタイヤデータを参考に、はじめ は低い値に設定し、ドライバーからのフィードバックを参考に内圧を高め、最速タイムを出した値を最終的なセット値とした。同様にバネとアンチロールバーに 関しても、設計およびスキッドパッドのセットを基準に実走を始め、車両の挙動、ドライバーのフィードバックを参考に、タイムを狙うコーナーを定めるなどし て、平均及び最速のラップタイムを評価基準に最終セットアップを選定した。
これらの取り組みによって、デザイン審査1位、スキッドパッド競技1位、オートクロス競技1位を獲得することができた。設計やセッティングを行っていく際 に、サスペンションにおいては様々な要素が複雑にそして非線形的に絡み合っているため、単純に一つの要素だけを切り取って評価を行うことは難しい。その中 で最終的に速い車両へと作り上げるためには、それらのトレードオフをバランスさせることに非常に苦労した。来年度はさらなる車両の評価等を行い、最適なト レードオフ関係を導き出し、さらに速い車両を作り上げたい。