第2回専門家による講評

第1回 受賞チームによる設計・開発レポートに対する専門家による講評

2014年全日本学生フォーミュラ大会において「ベスト・サスペンション賞」を受賞した3チームの構想・設計・実走について、筆者(両角)を含む車両およびシャシーの設計と実走評価の専門家(複数)の目にはどう映ったかをまとめてみることにした。 基本的に、シャシー・デザインと実走の仕上げに「こうすれば(必ず)良いものができる」という『正解』はない。しかしタイヤが発生する摩擦力によって、あ る質量を持つ車両の運動を作り出す中で、タイヤをいかに良い状態で路面と触れ合わせ、その状態(幾何学的に、そして荷重の加わり方の両面で)少なく維持す るかを、ひとつひとつ論理的に考え、そこに現れる多くの局面、様々な現象を、優先順位を策定しつつ組み上げてゆくことで、『より良い解』に近づくことはで きる。その一方で学生フォーミュラ活動の基本として、専門家が「こうすれば良い(良くなる)」という解や指針を具体的に提示するべきではないので、それぞ れの取り組み、思考の組み立て方、企画から設計、さらに実走開発に至る方法論について論評を加えてゆく形で進めたい。 今回は検討や解説を補足する図版類はとくに用意しないので、前回の3チームのレポートとの間を行き来しながら読み進めていただければと思う。

製品計画全般について

近年、全日本学生フォーミュラ大会のデザイン審査においてはそれぞれのチームが車両企画・設計・製作・実走開発を通して「開発のV字プロセス」を実体化す ることが強く推奨されている。つまり学生の皆さんが、既存の諸元や設計を踏襲してミニ・フォーミュラカーの「形」を手ずから作り上げることで満足するので はなく、「どんな資質を持つクルマを実現したいのか」というコンセプト・メイキングに始まり、それを実現するための技術的目標を策定し、そこからパッケー ジング・レイアウトを策定、個々の設計の内容を検討して具体化し、それを製品に作り上げる。さらにその車両の基礎特性を確かめることから始まって、自分た ちが設計の中で実現しようとした機能や特性がどれほど、どんなふうに実現できているかを検証する。それは最終的に基本コンセプトがいかに実現できている か、足りないものは何か、という検証にまで至るものであって、そこまで進めて「V字プロセス」が結実することになる。サ スペンション・デザインも当然ながら、大きな概念である車両の基本コンセプトを実現するための重要な一部分であり、それは単純に「サスペンション機構」 を形にすればいいのではなく、車両全体の機能要素の立体的構成、基本寸法と諸元をどう策定するかというパッケージング・レイアウトがあって、そこに「どん な運動をする車両を実現するか」というコンセプトの掘り下げを加えたところに形づくられるものである。 その意味で、今年「ベスト・サスペンション賞」を受賞した3チームは、車両計画、パッケージング・レイアウト、そしてサスペンションの設計、さらに製作に 至る一連のプロセスそのものを、自分たちなりに掘り下げてそれぞれの「解」を描き出している。単に特定の動的審査競技のタイムだけで評価されたわけではな く(もちろん、自動車を用いたスポーツ競技のための車両を開発しているので、速く走る資質を持つことは不可欠の要素であるけれども)、このシャシー・デザ イン全体において、今年の参加チームの中では(相対的に)優れた内容を示したことが評価されているのである。 とはいえ、まずモータースポーツ車両としてどんな資質を実現したいのかという基本コンセプトの内容、それを実現するためにどんな資質が必要か、そしてその 資質を生み出すための技術的アプローチをどう組み立てるか、という「出発点」の部分がいささか曖昧になっているのは、この3チームだけでなく参加チームの ほぼ全てに共通する弱点だといえる。もちろんその前提となるのは、タイヤと路面が接している「接地面」に発生する摩擦力に始まる車両運動、それを人間が操 るという「マン=マシン系」について、より深い理解とそれに基づく考察が不可欠であるわけだが。 たとえば2013年の大会からひとつの技術潮流として現れてきている「ホイールベース」をどう設定するかについても、この論理的考察を進めれば自ずからよ り良い方向が、そしてそれを具現化するためにさらに考えなければならない要素が次々に浮かび上がってくる。その意味で京都大学の考察には他チームにとって も参考になる部分が多いはずだが、しかし結果的に実走する車両のプロポーションと動きを観察すると、車両運動と、4つの接地面の位置関係(フットプリン ト)、車両全体の要素レイアウトとそこに生まれる重量配分など、もう一歩深く考えることで得られるものは多いはずである。ちなみにこの基本車両諸元におい て、前後の重量配分、ヨー慣性モーメントなどはもちろん大切だが、実車の運動の中では、質量の偏在、つまり何か重い塊が特定のタイヤに偏ってその仕事を増 やすようなレイアウトは、必ず車両の挙動(とくに過渡的な)に現れることも頭に入れておく必要がある。競技車両に限らず、一般路を走る車両でもそうした難 しさゆえに少数派となったり、また他の対応策を必要とした実例は少なくない。

サスペンション・デザインも当然ながら、大きな概念である車両の基本コンセプトを実現するための重要な一部分であり、それは単純に「サスペンション機構」 を形にすればいいのではなく、車両全体の機能要素の立体的構成、基本寸法と諸元をどう策定するかというパッケージング・レイアウトがあって、そこに「どん な運動をする車両を実現するか」というコンセプトの掘り下げを加えたところに形づくられるものである。

その意味で、今年「ベスト・サスペンション賞」を受賞した3チームは、車両計画、パッケージング・レイアウト、そしてサスペンションの設計、さらに製作に 至る一連のプロセスそのものを、自分たちなりに掘り下げてそれぞれの「解」を描き出している。単に特定の動的審査競技のタイムだけで評価されたわけではな く(もちろん、自動車を用いたスポーツ競技のための車両を開発しているので、速く走る資質を持つことは不可欠の要素であるけれども)、このシャシー・デザ イン全体において、今年の参加チームの中では(相対的に)優れた内容を示したことが評価されているのである。

とはいえ、まずモータースポーツ車両としてどんな資質を実現したいのかという基本コンセプトの内容、それを実現するためにどんな資質が必要か、そしてその 資質を生み出すための技術的アプローチをどう組み立てるか、という「出発点」の部分がいささか曖昧になっているのは、この3チームだけでなく参加チームの ほぼ全てに共通する弱点だといえる。もちろんその前提となるのは、タイヤと路面が接している「接地面」に発生する摩擦力に始まる車両運動、それを人間が操 るという「マン=マシン系」について、より深い理解とそれに基づく考察が不可欠であるわけだが。

たとえば2013年の大会からひとつの技術潮流として現れてきている「ホイールベース」をどう設定するかについても、この論理的考察を進めれば自ずからよ り良い方向が、そしてそれを具現化するためにさらに考えなければならない要素が次々に浮かび上がってくる。その意味で京都大学の考察には他チームにとって も参考になる部分が多いはずだが、しかし結果的に実走する車両のプロポーションと動きを観察すると、車両運動と、4つの接地面の位置関係(フットプリン ト)、車両全体の要素レイアウトとそこに生まれる重量配分など、もう一歩深く考えることで得られるものは多いはずである。ちなみにこの基本車両諸元におい て、前後の重量配分、ヨー慣性モーメントなどはもちろん大切だが、実車の運動の中では、質量の偏在、つまり何か重い塊が特定のタイヤに偏ってその仕事を増 やすようなレイアウトは、必ず車両の挙動(とくに過渡的な)に現れることも頭に入れておく必要がある。競技車両に限らず、一般路を走る車両でもそうした難 しさゆえに少数派となったり、また他の対応策を必要とした実例は少なくない。

目標性能の策定から実走開発まで

その次の思考ステップとして、どんな局面でどんな性能を実現するかという「目標性能」を策定するわけだが、大阪大学チームはここでの個々の検討とそこに現 れた論理的思考に対する評価が高かった。ただし大きな目標としているのが、特定のコース、すなわち近年の全日本学生フォーミュラ大会におけるオートクロ ス、エンデュランスのコースにおける「ラップタイム向上」に偏らないほうがよい。「週末にモータースポーツ競技に参加する人々のための車両」としては、 もっとバラエティに富んだコース(とはいえプロフェッショナル競技が行われる本格レーシングコースの類よりはコーナリングスピードが低く、狭いコースでは あろう)、そして天候を含む路面状況も様々であるはずで、その中でどんな状況でどんな車両運動を実現しようとするのか、より普遍的な性能目標を組み合わせ ることが望まれる。

たとえばコーナーの大きさにある幅を想定し、その中で最良の旋回プロセスを実現するにはどんな特性が求められるのか、その評価検討手法としては何が適して いるのか(車両が完成した後の実車評価も含めて)などから考えてゆく。そして鍵になると考えられるいくつかの特性については、具体的な数値目標まで踏み込 んで考えることが望ましい。これがうまく組み立てられれば、実車をまずその基本的な性能目標において評価し、その結果を前提として実際に走るコースに応じ たセッティングを組み立ててゆくという、本来の自動車開発で求められるプロセスも実現できるはずである。特定のコースでのラップタイム、区間通過時間、特 定のコーナーの通過速度などは、車両の様々な性能と特性(とドライビング)を組み合わせた時に現れる「結果」であって、それ自体が性能目標となるものでは ない。ただし競技車両に求められる「目に見えるパフォーマンスの実証」において(学生フォーミュラでは「開発成果の“デモンストレーション"として)求め られるものではある。

京都大学、名古屋大学のレポートには、そして他のほとんどの参加チームにおいても、いざ具体的な設計に入る段階での目標が漠然とした概念に留まる部分が多 かった。「こんなふうに走る車両にしたい」というイメージを、どう具体化するか、そこで鍵となる特性に焦点を当て、その性能目標を数値検討にまで進め、そ れを実現するにはどこをどうするかを考えて設計し、完成した車両において計測、実証あるいは改良するというプロセスに踏み出したいところだ。もちろんそれ は何らかの仮定に基づく計算値、シミュレーションでもいいが、タイヤという粘弾性体と粗さも様々な路面の摩擦によって発生する力を筆頭に、空気(流体)の ふるまい、さらには金属などの材料ではその微細構造(結晶)の中に至るまで、車両に働き、車両の中でやりとりされる力や運動は自動車開発と理論研究の先端 においてもいまだ詳らかにされていない。だからシミュレーションに頼るのではなく、その結果を盲信することなく、またそれに過大な時間を費やす必要もな く、むしろ現実に自分たちが設計し、作成したものが、個別の部品から車両全体まで、現実にどう動いているかを確かめ、それを数値化し、比較することに、 もっと多くの時間と工数を割いてほしいと思う。

車両が完成した後は、特定のコースをひたすら走り込み、そのラップタイム、区間タイムの向上を追いかけ、全日本大会が終わるともう次の車両の開発に入る、 というパターンが今の日本の学生フォーミュラ活動の基本になってしまっているが、実際に車両開発においては試作車が完成したらまず様々な基本諸元、基本性 能を計測し、目標値と比較し、そこから開発、改良がスタートする。車両運動に関して言えば、まず寸法、アライメントとその変化、重量(とくに4輪のコー ナーウェイト)、重心位置などの基本諸元が設計どおりに仕上がっているかの計測に始まり、各部の作動・摺動や機能を確かめ、それらを仕上げたらまず基本性 能の計測を実施する。とくに車両運動特性でいえば、定常円旋回におけるアンダーステア・オーバーステア(US・OS)特性、その時の車体ロール、車輪の動 的アライメント、操舵力などから始め、さらに過渡的ステア特性(ヨー応答など)を測定するといったあたりが基礎試験となる。フォーミュラSAEの動的イベ ントに設定されている「スキッドパッド」は、まさにこの定常円旋回によるUS・OS特性の試験法をアレンジしたものであることにもっと着目したほうが良 い。

そして、こうした実車試験のデータなしには改良の方向を策定することができないし、個々の機能要素の性能への影響も見えない。まして次の車両ではどんな性 能目標を立てるかを考えることなどできないのである。逆にいえば、そうした実証的手法を1年間の開発計画の中に織り込むことが、車両とチームのパフォーマ ンス向上に直結する状況なのである。 その意味で、京都大学チームが実走について「まず定常特性から固めてゆくことを念頭に置いた」というアプローチは良い。基礎特性が把握できた上でならば、 大阪大学チームの「スキッドパッド、周回走行に対してそれぞれのセッティングを用意した」という手法は、競技の現場で最適・最速を求めるレーシングチーム であれば、必ず見出す方向であろう。ただしその最適化はけして簡単ではないはずだが。

製品計画全般について

個別の検討

車両の旋回運動を作り出し、収束させることだけに着目すれば、そこに働いているのは4つのタイヤ(の接地面)に発生する摩擦力が重心点まわりに作用する モーメント(ヨー・モーメント)であり、その大きさとバランスが鍵となり、あとは車両側のヨー慣性モーメントと質量の分布(その全てに慣性力が作用する。 重心点だけにではなく)に対してタイヤのヨー・モーメントがいかに作用するかを考えればいい。実車ではそこにロールが、あるいはピッチングとそれに伴う質 量の運動とタイヤ荷重変化が加わるわけだが。ちなみに旋回運動によって発生する慣性力(遠心力)に対して、車両をある円周上に止めるのが4つのタイヤの摩 擦力の合力である。

この「ヨーイングにおける力学的釣り合い」をさらに単純化して考える方法が「2輪車モデル」であり、前述のホイールベースが旋回運動にどう影響するかの検 討と実体験との整合もここから始めて深めてゆくことができる。ロングホイールベース化を先導する形になった2013年の横浜国立大学、2014年の京都大 学、豊橋科学技術大学などの基本レイアウトもそうした検討から導き出されたものだ。

今回、レポートをまとめていただいた3チームともに、それぞれの発想とアプローチで、旋回運動の最適化、とくにこのヨーイングの発生・維持・収束の論理的 考察に取り組んでいる。それぞれによく考え、検討していることが伝わってくるが、先ほども述べたように現実のタイヤと車両のふるまいは非常に複雑なもので あり、その中で「鍵を握る」要素をうまく抽出して考える必要がある。また自分たちが着目した要素について牽強付会な結論に走らないよう、つまりできるだけ 普遍的な現象検討へと進むことを意識してほしいと思う。こうした理論模索と検討においてかなり高いレベルに進んでいる大阪大学にしても、現実の車両の運 動、ドライバーによるコントロールへの反応、それらの結果としてのラップタイムを観察すると、現実に即して「良い車両」に結びつく要素の抽出、そして論理 の構築にはまだまだ進化の余地が大きいと言える。

車両運動と設計を結びつける中で、今回の3チームの分析と設計の中で意見が大きく分かれたのがバンプステア、すなわち車輪のストロークに伴うトー変化につ いてである。一般論として、バンプステアが現れると、路面の凹凸(アンジュレーション)をタイヤが通過する中で左右輪が別々のストロークを起こした瞬間、 タイヤのスリップアングルが変動し、横力が発生、あるいはその左右バランスが崩れて、ドライバーが予期していない車両の横運動が起こる。量産車でもバンプ ステアはもちろんイニシャル・トーイン(初期設定値)であっても、タイヤの横力発生を早くしようという意図で設定した時、実路上では好ましくない横運動が 頻発する例にしばしば出会う(とくに最近の日本車で)。

とくに後輪に関しては京都大学のレポートにあるように、車両がヨーイングを始める、つまり操舵によってフロントタイヤが横力を発生して車両全体が「向きを 変える」旋転運動を作るのに合わせて、後輪にも横すべり角がついて横力が立ち上がることでヨーイングが安定し、旋回運動に落ち着くのが早くなる、というの が基本的なセオリーである。さらに時間軸を引き延ばして車両運動を観察すれば、「向きを変える」瞬間の挙動はフロントタイヤの横力の発生~車両のフロント の横移動~車両全体のヨー運動発生という流れに対して、リアタイヤの横力を、どのタイミングで、どのくらい立ち上げるかで決まってくる。その先で前後のタ イヤ横力が作るそれぞれのヨー・モーメントがバランスすることで、車両は一定の旋回に落ち着くのである。その中でリアタイヤの車体に対するトー角が変動し ない状態であれば、車体全体の横すべり角すなわちリアタイヤの横すべり角となって、ドライバーは自らの肉体に張りめぐらされているセンサーでそれを体感し て操れば、シンプルにヨー・コントロールができる(はず)。問題はこのリアタイヤの横力の立ち上がりを車両側でどう設定するかであり、一方でドライバーと してはステアリング操作の量と速さとタイミング、そして遠心力の受け止め方、すなわちロールと荷重移動までステアリングワークで、さらにブレーキ操作の ニュアンスで前後の荷重移動の残し方までコントロールすることで、自在なヨー・コントロール(ターンインにおける)が可能になるのではある。

名古屋大学の設計は、ここで車両のロール増加に伴ってリアタイヤに旋回内側へのトー変化を積極的に与えるように、バンプステアを設定したのが特徴。その根 拠とした実験と考察には一考の余地があり、それについては同チームのメンバーもすでに気づいている部分が多いようである。ひとつヒントを記しておくなら ば、定常円旋回(スキッドパッド)においてリアタイヤのトー変化が起こらない車両であれば、車両運動の中で必要となるコーナリングフォースを発生するとこ ろまで車体横すべり角がついたところで安定する(前後のヨー・モーメントが釣り合った定常円となる)。名古屋大学が前年車両でスキッドパッド走行を行い、 リアのバンプステアを増やすと旋回限界が高まったとすれば、それは定常円旋回に移行するまでの過渡運動の中で何かが起こっていた可能性が大きい。本年の車 両については、リアタイヤの定常旋回における摩擦力限界が必ずしも高くない状況については、実走観察によってかなりのところまで推測が可能、というのがこ の一文の背景にいる面々に共通する見解である。これを読んでいる皆さんも大会の動画映像、また実走時にタイヤと路面の関係、車両運動に着目した観察をする ことで、よりリアルな仮説を組み立て、それに基づいて検証の方法を考え、事実に近づくことができるはずだ。

この「実走観察」は、自分たちが作ったクルマがどう走っているか、車両の挙動と、そこにつながるタイヤの使い方やサスペンションと車体の動きを読みとるた めに、最も重要かつ効果的な手法であって、学生フォーミュラに関わる全てのチーム、メンバーはもっと「走るクルマ」を見てほしい。名古屋大学のマシンとも 共通する「コーナリングフォースを十分に引き出し、使い切っていない」原因となる症状は、じつは過半(以上)のマシンに見受けられるのである。

一方、大阪大学のレポートの中で紹介されている「ステアリング機構の剛性向上・遊びの低減」は、マン=マシン系としての自動車において非常に重要なボイン トのひとつである。今回のレポートの中にはないけれども、京都大学もステアリング・ギアボックスそのものとその固定、調整などに関わる設計、そして部品製 作に関しては、以前からずいぶんこだわった造りをしてきている。ステアリング機構とブレーキ機構は、フェイルすると重大な事故に直結することも加えて、全 ての関係者はこの部分の設計、そして現実の部品のあり方にもっと目配りする必要があることを、ここで明記しておきたい。

このステアリング系の検討に続いて大阪大学のレポートでは、サスペンションのアライメント剛性(ここではリアのトー剛性)の効果に言及している。これもま た重要な、車両運動とそれをコントロールするドライビングの鍵を握る要件のひとつである。じつは一般車両でもサスペンションリンクやダンパーの取付部にラ バーブッシュを多用しているとはいえ、動的なアライメント変化をいかに少なくして、等価剛性を高めているかが、車両運動特性の良し悪し、そしてドライバー が体感するクルマの動きと、そこに感ずる信頼感や安心感に直結する。さらに車輪からの入力を受ける車体の局部剛性などまでが車両の運動や振動の中に現れ、 ドライバーを含む乗員はそれを何らかの印象として感じ取っているのである。競技専用車両ではこうしたサスペンション構成要素と車体の結合点は、球面ジョイ ントを主に、ラバーブッシュ類とは比較にならないほど剛性の高い部品が使われている。それはこうした車両では、ドライビングの中でサスペンションの動きが 正確であること、ドライバーに車両運動が、そしてタイヤの変形や摩擦状態の変化ができるだけリアルな感触で伝わることが、何より優先されるからである。

個々の要素の設計と製造については、この3チームともに高いレベルにある。それももちろん受賞につながった要素のひとつとなっている。それにしてもそれぞ れに良く造られている一方で、車両の運動や反応にはかなりの「癖」があるものと推察されるマシンを、あのタイトなコーナーとスラロームの連続、しかも低い 視点からはただびっしりと並び立っているだけに見えるパイロンの群れで規定されたコースの中を、タイヤのグリップをほぼ使い切るところまで攻めて走るドラ イバー担当の学生諸君の習熟レベルの高さには、深い敬意を表するものである。そして車両の基本レイアウトからして異なり、エンジンも、さらにここに紹介し たサスペンションも、それぞれに異なるアプローチをしたマシン+ドライバーが、1周約1分のコースで2~3秒の差、すなわち5%以内の幅の中に収まること は、自動車競技とはすなわち「タイヤが発生する摩擦力の積分値の高さ」を競うものだという原理原則を踏まえた上でなお、「クルマっておもしろい!」。そう 思いませんか?