Tech Seminar世良耕太のZFテックセミナー

パワーユニットを中心としたF1の技術動向について【前編】

F1は姿も中身も、2014年に大きく変わった。「姿」は一目瞭然で、高くなる一方だったノーズが極端に低くなっている。2013年まで、ノーズ先端の高さは500mm(リファレンスプレーン基準)まで認められていたが、2014年からは185mmに規制されることになった。規則変更の理由は、安全性の確保だ。

ノーズを高くすると、フロントウイングとノーズに挟まれた空間が広くなり、そこから大量の空気を後方に流すことができる。ノーズの下やサイドポンツーンの脇に配した空力デバイスで、大量に取り込んだ空気を制御し、リヤに向かわせる。また、フロアの下にもたくさん取り込む。

そうすることで、フロアで発生させるダウンフォースを増やすのがハイノーズの狙いだ。前後のウイングでもダウンフォースを発生させることは可能だが、同じダウンフォースを発生させるなら、ウイングで発生させるよりフロアで発生させた方がドラッグ(空気抵抗)は小さくて済み、効率は高くなる。

2009年にレッドブルがRB5で始めたハイノーズの考え方は徐々に他のチームにも波及し、主流になっていった。流路をふさぐ格好になるサスペンションアームやタイロッドも邪魔になるので、モノコック側の高い位置にピックアップポイントを設けた。その結果、サスペンションアームには強い下反角がつくことになった。サスペンションの動きは犠牲になるが、それよりも空力性能を重視したのである。その方が、ラップタイム短縮に効果があるからだ。

ノーズが高くなるにつれ、安全性に対する懸念が持ち上がるようになった。先行する車両に追突した場合、ノーズが低ければそれが歯止めになるが、ノーズが高いと先行車に乗り上げやすくなる。ルールを統括するFIAが最も心配したのは、いわゆるTボーンクラッシュだ。横を向いた相手車両にぶつかった場合、高いノーズがドライバーを攻撃する危険がある。

これがローノーズ義務付け化の背景にある。規則を額面どおりに受け取って設計したのでは、低いノーズが空気の流れを邪魔してしまう。そこで、参戦各チームは知恵を絞って、なんとか空間を確保しようとした。ノーズに関しては、「先端の後方50mmの位置で9000mm2以上の面積を有していなければならない」とする条文がある。この規則さえ満たしてしまえば、ノーズ先端から前車軸の前方750mmまでは細いノーズを設計することができる。

この条文に目を付けたチームが生み出したのが、太いノーズの先端部分だけ極端に細く成形した2段構えのノーズだった。空力性能を重視した結果だが、美しいか醜いかと問われれば間違いなく後者である。不評を感じ取ったFIAは2015年、ノーズに関する規則を変更。突起が完全になくなったわけではないが、だいぶマシにはなっている。

2013年まで、フロントウイングの幅は車体の最大幅と同じ1800mmに定められていたが、2014年からは1650mmに改められた。片側が75mmずつ狭くなったことになる。ワイドなフロントウイングは接触によって破損しやすいので、少し狭くして接触による破損の機会を減らそうと考えたのだ。

フロントタイヤの前に位置するエリアは、ダウンフォースを確保するよりもむしろ、フロントタイヤの接地面を起点に発生する乱流を制御する目的で開発が行われている。規則変更後も翼端板寄りのエリアがフロントタイヤの乱流制御に用いられることに変わりはないが、使えるエリアが狭くなるのは悩ましい。

また、2014年からビームウイングが廃止された。リヤウイングはロの字型の構造を持っており、上の水平部分がいわゆるリヤウイングで、下の水平部分をビームウイングと呼ぶ。ビームウイングはリヤウイングと連携してディフューザーを通過する空気の引き抜き効果を高める役割を担っていた。それが廃止されるので、単純に考えればフロアで発生するダウンフォースは減る。ビームウイングの廃止はローノーズ化とは背景が異なり、ダウンフォース削減によるスピード抑制が狙いだ。

エンジンはまるっきり別物に切り替わった。2006年から2013年までのF1は2.4L・V8自然吸気エンジンを搭載していたが、2014年からは1.6L・V6ターボエンジンを積むことになった。2.4L・V8はポート噴射だったが、1.6L・V6ターボは直噴である。すでに量産車で主流(とくにヨーロッパで)となっていた過給ダウンサイジングのコンセプトを取り入れた格好だ。

2013年までも、F1はKERS(Kinetic Energy Recovery Systems:カーズ)と呼ぶハイブリッドシステムを組み合わせていた。運動エネルギー回生システムのことで、制動時に運動エネルギーを電気エネルギーに変換するシステムである。コンベンショナルな車両の場合はブレーキユニットで熱に変換し大気に放出していたエネルギーを、モーター兼用のジェネレーターで回生する仕組みだ。原理は量産ハイブリッド車と同じである。

2014年からは高出力化したKERSとも言えるERS-Kを積む。KERSのモーター/ジェネレーターユニット(MGU)は最高出力が60kWに定められていた。1周あたりに放出できるエネルギー量は400kJに定められていたので、60kWの出力を約6.6秒放出できたことになる。

ERS-Kのモーター/ジェネレーターユニット(MGU-K)は、最高出力が120kWに定められている。出力は2013年までの倍だ。1周あたりに放出できるエネルギー量は10倍の4MJになっており、計算上、1周あたり約33.3秒のアシストを行うことができる。実は毎周4MJのエネルギーを放出できるわけではないのだが、その点については次回詳しく説明する。

2013年までのKERSは、ステアリングホイールに設けられたボタンなどを操作することによってエネルギーの放出を行っていた。2014年以降のERS-Kは、アクセルペダルの動きと連動してエネルギー放出させる決まりで、量産ハイブリッド車と同じだ。

量産ハイブリッド車と同じと言えば、協調回生ブレーキ(F1では「ブレーキ・バイ・ワイヤ」と呼ぶ)の搭載が認められたのも、大きな変更点のひとつだ。ドライバーの要求制動力に対し、油圧ブレーキの配分と回生ブレーキの配分を自動制御するシステムである。MGUの高出力化にともなって必要性が認められ、導入の運びとなった。

2014年のエンジンはさらに、熱エネルギー回生システム(ERS-H)を搭載することが義務づけられた。直噴エンジンは、燃焼室内で空気と燃料を混合し、燃焼させる。すると、熱エネルギーが発生。この熱エネルギーをクランクシャフトの回転エネルギーに変換するわけだが、かなりの割合が変換しきれずに排気として大気に放出される。

2014年以降のF1は、ターボと同軸にモーター/ジェネレーターユニット(MGU-H)を配し、排気が持つ熱エネルギーを電気エネルギーに変換する。ターボも排気が持つエネルギーを再利用するデバイスだが、MGU-Hを加えたことで、F1は排気を再利用するデバイスを2つ持つことになる。MGU-Kの最高出力が120kWに制限されている一方で、MGU-Hに制限はない。

MGU-Kは最高回転数の上限が50,000rpmに設定されている一方、MGU-Hは高回転で回るターボと同軸で回る都合上、125,000rpmに上限が設けられている。ターボの回転数としてはことさら高いとは言えないが、MGUの回転数としてはかなり高い部類に入る。

エンジンにもさまざまな制約が設けられている。最大ボア径は80mmだ。80mmの寸法を使い切ったとすると、ストロークは53mmになる。Vバンク角は90度だ。ターボは1基しか認められておらず(ツインターボは選択できない)、タービンとコンプレッサーをつなぐ軸はクランクシャフトと平行で、最大オフセットは25mmと定められている。となると実質的に、Vバンクの間かその前後にレイアウトするしかない。しかも、「排気は外側」と定められているので、Vバンクの内側を排気にしてターボへの経路を短くするといった設計を選択することはできない。

最高回転数は15,000rpmに制限されている。2013年までは18,000rpmだったので、3,000rpmのダウンだ。当初は12,000rpmに設定する方向で話は進んでいたようだが、FIAと参戦コンストラクターの協議の結果、回転上限が引き上げられた経緯がある。

とはいえ、15,000rpmの上限まで使い切る開発にはなっていない。なぜなら、最大燃料流量が10,500rpmで頭打ちになるからだ。エンジンの形式変更や過給の有無も開発に与える影響は大きいが、燃料流量の制限が「ある」のと「ない」のでは、開発のアプローチは大きく異なる。

2013年までは燃料流量に制限はなく、150kg/h程度の燃料を消費していた。これが2014年からは100kg/hに制限されている。100kg/hに制限されるのは10,500rpm時で、それ以下の回転数では「rpm×0.009+5」の計算式で求められる流量が適用される。9,000rpmなら86kg/hだ。

10,500rpmで燃料流量が頭打ちになるので、それ以上の回転数で回す意味合いは薄れる。回転の上昇にともなって仕事量は増えるが、機械抵抗損失も増えるからだ。実際のところ、12,500rpm近辺が上限となっているようだ。自然吸気エンジンで12,500rpmも回っていればある程度官能的なサウンドを発することはできただろうが、新しいエンジンの場合は排気系に介在するターボによって音は遮られてしまうし、単位時間あたりに消費するエネルギーは減っているしで、ボリュームが大きくなる要素はない。

2014年に新しいエンジンが導入されて以来、音の迫力はなくなった。自然吸気エンジン時代には欠かせなかったイヤープラグは不要である。音の迫力不足を解消すべく、2016年には規則が変更され、ウェイストゲート専用のテールパイプを設けることが義務づけられた。

2015年まではテールパイプを1本にする決まりだったため、ウェイストゲートを通過した排気はメインパイプの途中で合流していた。ウェイストゲートが閉じているときは、行き止まりになったウェイストゲート〜メインパイプ間が消音機能を発揮したため、この機能を排除するため、ウェイストゲートからの排気をダイレクトに排出する構造とした。残念ながら、音の迫力の面で根本的な解決にはなっていない。

次回は、燃料流量規制下におけるエンジンの開発の方向性と、ラップタイム短縮に効くMGU-K、MGU-Hの使い方についてお届けする。