Tech Seminar世良耕太のZFテックセミナー

フォーミュラEの概要

シーズン3~4(2016年・2017年)

フォーミュラE(以下FE)のシーズン3(2016/2017年)が始まった。参戦チームのラインアップを整理しておくと、昨年と同様、10チーム20台である。チーム数と出走台数については注釈が必要で、シーズン2(2015/2016年)の場合、実質的には9チーム18台だった。

シーズン2の開幕戦にはトゥルーリ・フォーミュラEチームが独自開発の電動パワートレーン(縦置き1モーター+縦置き4速)を引っ提げてエントリーしたが、出走しないまま第2戦後に撤退。参戦枠は空席のままシーズンの最後まで推移した。

その枠を埋める格好で、シーズン3からパナソニック・ジャガー・レーシングが参入。さらに、シーズン1〜2を戦ったチーム・アグリを引き継ぐ格好で、中国国籍のテチーターが参戦することになった。

シーズン3はシーズン2までと同様、参戦10チームすべてがSRT製のシャシーを使用する決まりだ。ただし新しいフロントウイングを採用することでフレッシュなイメージを演出している。ウイングを1枚足したようにも見えるが、空力的な意味はほとんどなくイメージ戦略的な意味合いが強い。

モーター、インバーター、ギヤボックスを含むパワートレーンを独自開発できる決まりなのは、シーズン2と同様だ。モーターは最大2基まで搭載することができ、メカニカルデフを通じて駆動力をドライブシャフトに伝えることが義務づけられている(トルクベクタリングは実質的に禁止)。変速段数を最大6とする規定に変わりはない。

シーズン2に向けては開発期間が限られていたため、シーズン1の共通パワートレーンを継続採用するチームがあった。シーズン3では共通パワートレーンをそのままの状態で使うチームはなくなった。これは、開発期間が十分にあったこと。共通パワートレーン(縦置き1モーター+縦置き5速)で臨むよりも、パワートレーンを独自開発した方が競争力は得られると判断したためだろう。また、純粋に、技術のチャレンジに価値を見いだしたとも考えられる。

シーズン3参戦各チームのパワートレーンを見てみると、モーターは縦置きあり横置きあり、ギヤボックスも縦置きあり横置きありで、変速段数もまちまちだ。全体の傾向としては、変速段数を減らす方向である。狙いのひとつは軽量化。もうひとつは変速にともなうロスの解消である。

前回のセミナーでも触れたが、FEはF1のようなシームレスシフトが禁止されているので、アップシフト時は駆動トルク切れによる空走期間が発生する。変速段数を減らせば、空走期間が減ってラップタイム短縮に貢献する。また、段数を減らすことでギヤボックスケーシング内にスペースの余裕が生まれ、共通パワートレーンではバッテリーの上に配置していたインバーターを収めることが可能になる。それが実現できれば、重心の低下に結びつく。

極端な例は、変速機構をそっくり省くことだ。すなわち、「変速なし」である。時速数十キロの低速から200km/hオーバーまでの高速を変速せずにカバーしようとすると、モーターの体格は大きくなりがちだ。だが、変速機構を積まなくて済むので、その部分では大幅な軽量化が可能になる。

「行き着く先は変速なしだ」と言い切る関係者もいるし、シーズン3で有段ギヤボックスを継続採用しているあるチームの関係者は、「シーズン4は変速なしにする」と断言してもいる。

シーズン2のチームタイトルを獲得したルノー・eダムスはシーズン2で横置き2速のギヤボックスを採用していたが、シーズン3では「変則なし」に変更。ザイテックと開発したパワートレーンを新興テチーターに供給する。

激戦の末にルノー・eダムスに敗れたアプト・シェフラー・アウディ・スポーツは、シェフラーがシーズン2向けに開発したパワートレーン(縦置き1モーター/横置き3速)をブラッシュアップしてシーズン3に臨む。

マヒンドラとヴェンチュリーはマクラーレン・アプライド・テクノロジーズ(MAT)が開発した共通パワートレーンをベースに手を加え、シーズン2に臨んでいた。マヒンドラはマニエッティ・マレリと組んで独自のパワートレーン(横置き1モーター/横置き2速)を開発。ドラゴン・レーシングはヴェンチュリーからパワートレーンの供給を受けていたが、シーズン3はマヒンドラ製にスイッチした。

一方、ヴェンチュリーは引きつづき、共通パワートレーンの進化版でシーズン3に臨む。インバーターは相変わらずバッテリーの上に置くが、スイッチング素子にローム製のシリコンカーバイド(SiC)を採用し、小型軽量化に取り組んでいる。変速段数は4速から2速にした。

独自パワートレーンの開発が間に合わなかったため、やむを得ず共通パワートレーンでシーズン2を戦ったアンドレッティは、開発のパートナーを変えてマニエッティ・マレリと組み、シーズン3に向けたパワートレーンを開発した。マニエッティ・マレリと組むのはマヒンドラと同じだが、パワートレーンの構成は異なっており、マヒンドラが横置きレイアウトのモーター&ギヤボックス(2速)を採用したのに対し、アンドレッティは縦置き(3速)を採用した。

ジャガー・レーシングのパワートレーンは共通バッテリーを開発・供給するウイリアムズ・アドバンスト・エンジニアリング(WAE)が開発する。縦置き1モーターと縦置き2速ギヤボックスの組み合わせだ。

開発は別だが、DSヴァージン・レーシングとNEXT EVはシーズン2に2モーターを採用していた点で共通していた。アキシャル型モーターを採用した点でもまた、共通している。モーターはローターをステーター内に配置するラジアル型が一般的だが、アキシャル型はローターとステーターが軸方向に対向する配置をとる。トルク発生面を広くすることが可能で、その結果、体積あたりのトルク密度を大きくするポテンシャルを持つ。ただし、径方向に大きくなってしまうのが難だ。

DSヴァージンは2モーターを採用したことによる重量増を嫌い、横置き1モーターと横置き2速のコンビネーションを新たに開発し、シーズン3に投入した。一方、NEXT EVはアキシャル型モーター×2を継続採用。ただし、レイアウトは変更。シーズン2は縦置きにした2基のモーターを鋼管スペースフレームにマウントしていたが、シーズン3は2基のモーターを横置きにしたうえでカーボンファイバー製ケースに収めている。

表に出す、出さないは別にして、電動系コンポーネントを手がけるメーカーとチームがパートナーを組む例が後を絶たない。ZFがヴェンチュリーのテクニカルパートナーになったのもそのひとつで、電動パワートレーンを開発するステージとして、あるいは電動化技術に関する技術力の高さを広く世界にPRする場としてのFEの価値の高さを物語っている。2018/2019年のシーズン5には参戦枠が2つ増えて全12チームになる予定だが、増えた参戦枠の1つをメルセデス・ベンツが埋めることが確約されている。FEはどんどん活発になる。

ヴェンチュリーとのパートナーシップでプロジェクトを率いるのは、ZFの100%子会社であるZFレースエンジニアリング(以下ZRE)だ。ZREはZFが有するモーター、インバーター、ソフトウェア、ギヤボックスなどのメカニカルコンポーネント部門やシステム統合を担当する部署とのコーディネートを行う。

シーズン3の車両に関しては時間的な制約から技術的な関与が限定されているが、ダンパーとギヤボックスの開発に関してZFの技術が生きている。

「フォーミュラ・マトリクス・ダンパーを起源とするダンパーを採用していますが。FE専用開発品で、レスポンスを高めるためにドロップオフバルブを変更するなど、いくつかのモディファイを行っています。このダンパーはヴェンチュリーだけでなく他のチームでも採用されています。ただし、各チームとも仕様は異なっています」

このようにZF側は説明する。ギヤボックスの開発に関しては、ギヤの設計やオイルのマネージメントに関してサポートした。

「ヴェンチュリーは独自に2速ギヤボックスを開発しました。その際、シフト作動やギヤの設計、オイルのマネージメント、温度の管理、効率に関して課題に直面しました。ZFはギヤボックスの設計に関してノウハウの蓄積がありますので、とくにギヤの設計やオイルのマネージメント、効率に関して改善のためのアドバイスを行いました」

シーズン4(2017/2018年)に向けては、ギヤボックスの再設計および最適化に取り組む予定。並行してパワートレーンの開発を行い、完全新設計のパワートレーン(モーター/インバーター/ギヤボックス)を搭載した車両をシーズン5(2018/2019年)に投入する計画だという。
「シーズン5に向けた課題は、バッテリーのキャパシティをほぼ2倍に増やすことです(注:MATがバッテリーサプライヤーに選定された)。これにともなってパフォーマンスが引き上げられることになっていますが、そうなると、現在よりももっとエネルギーのマネージメントが重要になります。高度に統合され、かつ効率の高いシステムを開発することを、ZFは勝つために必要なターゲットに掲げています。コンポーネント単体は無論のこと、システムとして効率を高めることが重要です」

FEで勝利を収めること、シリーズを制することは、電動化技術の優位性を広く世間に知らしめることになる。そのことを知っているからこそ、世界の有力メーカーが次々と参入してくるのだ。ZFも例外ではない。

「FEにまつわるあらゆる技術領域で知識を深めることが、量産技術に生きることになります。また、FEはマーケティングの側面でも注目に値するレースシリーズです。なぜなら、すでに高い人気を獲得しているからです。だから、ZFはFEへの参入を決めたのです。電気駆動や自動運転において革新的な技術を投入し、テクノロジー企業のトップを目指す「ZF 2025戦略」を掲げるZFにとって、FEは電動化技術に関する専門的知識を蓄積する後押しになると考えています」

市街地を転用した狭いコースで繰り広げられるバトルも見逃せないが、世界の有力企業がトップを目指す技術の戦いも見逃せない。

パワートレーンの変遷

シーズン2(2015/2016) シーズン3(2016/2017)
チーム モーター ギヤボックス モーター ギヤボックス 技術パートナー

Renault e.dams
1モーター
(横置き)
2速
(横置き)
1モーター
(横置き)
変速なし Zytek
Techeetah(旧Aguri) 1モーター
(縦置き)
5速
(縦置き)
1モーター
(横置き)
変速なし Renault
ABT Schaeffler Audi Sport 1モーター
(縦置き)
3速
(横置き)
1モーター
(縦置き)
3速
(横置き)
Shaeffler
DS Virgin Racing 2モーター
(横置き/アキシャル)
変速なし 1モーター
(横置き)
2速
(横置き)
Mahindra Racing 1モーター
(縦置き)
4速
(縦置き)
1モーター
(横置き)
2速
(横置き)
Magnetti Marelli
Dragon Racing 1モーター
(縦置き)
4速
(縦置き)
1モーター
(横置き)
2速
(横置き)
Mahindra
Venturi 1モーター
(縦置き)
4速
(縦置き)
1モーター
(縦置き)
2速
(縦置き)
ZF
Andretti 1モーター
(縦置き)
5速
(縦置き)
1モーター
(縦置き)
3速
(縦置き)
Magnetti Marelli
Jaguar Racing 1モーター
(縦置き)
2速
(縦置き)
WAE
NEXT EV NIO 2モーター
(縦置き/アキシャル)
変速なし 2モーター
(横置き/アキシャル)
変速なし Omni Gear