Tech Seminar世良耕太のZFテックセミナー

フォーミュラEの概要

シーズン1~2(2014年・2015年)

2014年から始まったフォーミュラE(以下FE)が3シーズン目のシーズン3に突入する。モータースポーツのシーズンは春に始まって秋に終わるのが一般的だが、FEはあえて開催時期をずらし、秋にシーズンを始めて翌年の夏に終える。

新しいカテゴリーに注目してもらうための策でもあるし、他カテゴリーをフォローしているファンが「どっちを見るか悩む」ことのないようにするための配慮だ。また、他カテゴリーに参戦するドライバーがFEにも参戦できるようにとの配慮でもある。

実際には開催日程の重複を完全に避けるには至っていない(例えば、シーズン3の開幕戦は、F1日本GPと重なっている)。FEと他カテゴリーの開催日程が重なった場合は、他カテゴリーを優先するドライバーが主流だ。FEの価値が高まれば、立場が逆転するのだろう。

FEはF1やWEC(世界耐久選手権)、WTCC(世界ツーリングカー選手権)と同様、FIA(国際自動車連盟)が統括するレースシリーズだ。「フォーミュラ」の名称が示すように、コクピットはオープンで、4つのタイヤはボディワークに覆われておらず、露出している。F1がエンジンを軸にエネルギー回生システムを組み合わせたハイブリッドシステムを搭載する競技車両なら、FEは電動パワートレーンを積んだ競技車両である。電気自動車のレーシングカーと言い換えてもいい。

2014/2015年のシーズン1は、シリーズを順調に船出させるため、全車共通の車両で競技を行った。いきなり技術競争を持ち込んだ場合、技術力の格差がレースの面白味を奪ってしまう可能性がある。技術的に攻めるあまり信頼性の確保が追いつかず、レースが成立しない可能性もなきにしもあらずだ。

そうした不確定要素や不安要素を取り除くため、FEは共通仕様のマシンでシーズン1に臨むことにした。それが、スパーク・レーシング・テクノロジー(SRT)が開発したスパーク・ルノーSRT_01Eだ。SRTはFE専用車両を供給するために設立された組織(本拠地はフランス・パリ)で、製造設備は持たず、窓口機能に特化。車体の製造はダラーラ、電動パワートレーンはマクラーレン・エレクトロニック・システムズ(MES)、バッテリーはウイリアムズ・アドバンスト・エンジニアリング(WAE)が開発・製造を受け持つ。システムの制御はルノーが担当。ギヤボックス(トランスミッション)はヒューランド製の5速で、MESを経由してSRTに供給される段取りだ。

出力の大きなモーターを搭載すれば、F1のように300km/hオーバーの最高速を実現することは可能だ。だが、その状態で長時間走るためには、大容量のバッテリーを搭載する必要がある。エネルギー密度の高いリチウムイオンバッテリーといえども電池は桁違いに質量エネルギー密度が低く、同じ質量なら液体燃料の100分の1以下のエネルギーしか搭載できないのが現状だ。容量を増やせば増やすほど重量は重くなり、運動性能を奪ってしまう。

運動性能と航続距離のバランスをとったのがSRT_01Eということだ。WAEが開発したリチウムイオンバッテリーは、28kWhの電気エネルギーをモー ター/ジェネレーターユニット(MGU)に供給できる仕様となっており、2500kmのライフを保証している。バッテリーを収めるケースは炭素繊維強化プ ラスチック(CFRP)製サバイバルセル(いわゆるモノコック)の背後に締結する構造。従来のフォーミュラカーにあてはめれば、エンジンの位置にバッテ リーを搭載する格好だ。

フォーミュラカーにおけるエンジンと同様、FEではバッテリーが車体の構造材の一部として機能する。そのため、バッテリーを収めるCFRP製のケースは相応の剛性を備える必要があり、開発・製造のノウハウが豊富なダラーラが製造。バッテリーの性能や安全設計に関してはWAEが責任を持つ。セルの重量は200kgだが、バッテリー全体の重量は345kgにもなる。重たいバッテリーが効いて、車両の最低重量は888kg(ドライバー込み)に達する。WECのLMP1-Hは875kg(ドライバー除く)、F1は702kg(ドライバー込み)だ。

MGUの最高出力は200kWである。200kWの出力を発生できるのはプラクティスと予選だけで、限られたエネルギーを有効に使うため、レースでは150kWに制限される。それでも最高速は200km/hを超える。1日でプラクティス、予選、レースを集中して行うFEは主に市街地に設けた特設コースで開催する。観戦エリアとコースが近いため、200km/hといえども迫力は十分だ。

FEはFanBoost(ファンブースト)と名付けた、ファンとレースを結びつける新しい取り組みを導入した。SNSなどを通じた人気投票により、上位3名のドライバーにエクストラのパワーを与える決まりだ。上位3名にドライバーには、レース中に180kW(+30kW)のパワーを5秒間使える権利が与えられる。主にここ一発の追い越しに使うことを意図した機能だが、ディフェンスに使ってもいい。

日産リーフのバッテリー容量が24kWhと30kWhの2種類だといえば、FEが備える28kWhのエネルギー量が想像つくだろうか。レース中の出力を 150kWに抑えたとはいえ、全開率の高いレースではすぐに底をついてしまう。だから、FEは80〜90kmに設定されたレースの途中で、満充電にしてあ る別の車両に乗り換えてレースを続行する。シートベルトの着用をおろそかにしないよう、乗り換えの最低所要時間を設けている。

バッテリーのエネルギー量には限りがあるので、エネルギーマネージメントが重要だ。基本的に、レース中は回生能力をマックス(100kW)にして走る。ただし、レース直後、あるいはクルマを乗り換えた直後はバッテリーが満充電状態なので回生したエネルギーを蓄えることはできず、油圧ブレーキのバランスをリヤ寄りにしつつ、回生せずに走る。バッテリー残量が減るのに応じて回生ブレーキを機能させ、油圧ブレーキの配分をフロントに寄せる調節をしていく。

FEは段階的に技術レベルを上げていくロードマップを描いており、現時点では2018/2019年のシーズン5から、車両の乗り換えをせずに1レース走りきれるようにする構想を掲げている。そのためには54kWh程度のバッテリー容量が必要だが、現時点の技術をそのままスライドしてバッテリーを用意したのでは、大きく重たくなってしまう。運動性能を損なわずに成立させるには、エネルギー密度を高めて重量を軽減する必要がある。

FEは非接触充電も採用している。といっても競技車両にではなく、BMWが提供するセーフティカー(i8)とメディカルカー(i3)にのみ採用 している。非接触充電の技術を提供しているのは、FEと技術パートナーシップを結ぶクアルコムで、走行しながら非接触充電ができるダイナミックチャージングの実用化に向けて開発を進めている。

2015/2016年のシーズン2はシーズン1と同様、参戦10チームすべてがSRT製のシャシーを使用する決まりだ。車両のシルエットはシーズン1とまったく変わらないが、中身は進化を遂げている。パワートレーンの独自開発が可能になったからだ。

FEでいうパワートレーンは、MGU、インバーター、ギヤボックスを指す。共通車両のSRT_01EはMGU1基と5速ギヤボックスの組み合わせだったが、レギュレーション上、MGUは2基まで、ギヤボックスは6速まで認められている。

シーズン2にはシーズン1と同様、開幕時に10チームが顔をそろえた。そのうち、アンドレッティとチーム・アグリはシーズン1のパワートレーンを継続して使用した。すなわち、1モーター/5速だ。アンドレッティはパワートレーンの独自開発に取り組んでいたが、熟成が間に合わず、消極的な理由での継続使用だった。

残る8チームは独自開発のパワートレーンを搭載した。ただし、ドラゴンレーシングはヴェンチュリ製のパワートレーン(SRT_01Eのパワートレーンをベースにした1モーター/4速)を搭載したため、パワートレーンの種類としては7種類だ。マヒンドラ・レーシングの1モーター/4速もSRT_01Eのパワートレーンがベースである。トゥルーリはMotomaticaと名付けた1モーター/4速のパワートレーンを開発したが、一度も実走することなく、第2戦後に撤退した。

ギヤ段数が多い順に紹介していくと、アプト・シェフラー・アウディ・スポーツは1モーター/3速のパワートレーンを開発。ルノー・eダムスは1モーター/2速、DSヴァージンとNEXTEV TCRは2モーター/1速だ。2モーターの場合はリヤの各輪に割り当てることでトルクベクタリングが可能になるが、レギュレーションで禁止されており、2モーターの場合でもメカニカルデフを経由して力をドライブシャフトに伝達しなければならない。

F1のようなシームレスシフトはFEでは禁止されているので、アップシフト時は駆動トルク切れによるロスが発生する。そのロスを嫌った極端な例が1速の採用だ。つまり、変速なし、である。ただし、変速せずに時速数十キロの低速から200km/hオーバーの高速までカバーしようとすると、MGUの体格は大きくなってしまうし、常用する回転レンジが広くなって効率の悪い領域を使わざるを得なくなる。トルク切れによるロスとMGUの効率のバランス点を探っていくと、2〜4速になるということだ。

シーズン1はレース時のMGUの最高出力が150kWに規制されていたが、シーズン2は170kWに引き上げられた。ファンブーストによって得られるエネルギーは2台目に乗り換えてから放出する決まりとなり、プラス30kW(180kW)・5秒間の規定から、プラス100kJの規定へと改められた。ブースト時は最高出力を180kW〜200kWの範囲で設定することが可能で、200kW(+30kW)なら、3.3秒間のブーストが可能となる。

ギヤボックスの独自開発が許されたのにともなって、リヤサスペンションの設計変更も可能になった。ただし、プルロッド式はレギュレーションで認められておらず、プッシュロッド式のみが認められている。ピッチ制御用ユニットやイナーターの採用も認められておらず、前後サスペンションの連携も禁止されている。

サスペンションはコイルスプリングとダンパー、アンチロールバーのみのシンプルな構成で、アーム類にCFRPを用いることも禁止されている(ゆえに、F1以外のカテゴリーで一般的なスチールの板金材を使用)。

以上、パワートレーンを中心にFEのアウトラインとシーズン1からシーズン2にかけての変化についてまとめた。付け加えておくと、ミシュランが独占供給するタイヤはドライ&ウェット兼用の溝付きトレッドなのが特徴。ドライ路面ではスリック、濡れた路面では溝付きのインターミディエイトやウェットに履き替えるのが世界選手権クラスのカテゴリーでは一般的だが、FEは量産技術とレースの技術のリンクを重視し、あえてドライ&ウェット兼用の溝付きタイヤを選択した。

しかも、大径18インチ。これも、量産技術を意識したもので、フォーミュラカーとしては異例に大きい(F1、スーパーフォーミュラは13インチ、インディカーは15インチ)。

次回はシーズン3(2016/2017年)の概要と、ヴェンチュリと技術パートナー契約を結んだZFの関わりについてお届けする。